あけましておめでとうございます。
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今年もKAORIロウムサービスオフィス【年金部門】をよろしくお願い申し上げます。
さて、令和6年7月30日の社会保障審議会の年金部会で、久々に障害年金の制度改正の議論が行われましたので、その内容について簡単にまとめましたので、ご覧頂ければ幸いです。
様々な論点が問題提起されており、「現時点で議論が求められる課題」を優先して議論するにあたり、実務を担う専門家として、障害年金に詳しい社会保険労務士、 医師(様々な専門の医師。障害認定医を含む。)、社会保障学者等の有識者や日本年金機構からヒアリングを行い、実務上・制度上の課題と今後の方向性について整理した上で委員の議論がされています。
厚生労働省第17回社会保障審議会年金部会(7月30 日)での議論【現時点で議論が求められる課題】
【現時点で議論が求められる課題】
1.初診日要件
2.事後重症の場合の支給開始時期
3.直近1年要件
4.障害年金受給者の国民年金保険料免除の取扱い
5.障害年金と就労収入の調整
障害年金制度に関連する検討課題について
- 初診日要件
【初診日に係る論点】
障害厚生年金に関わるもので、保険事故の発生時点となっている初診日について、下記➀あるいは②であれば障害厚生年金を受給できるようにしましょうという考え方です。
➀ 被保険者資格喪失後の一定期間内に初診日があれば、被保険者資格喪失後に初診日があっても給付対象にする考え方。 ※「延長保護」という言葉を使っています
② 厚生年金保険料の納付済期間が一定以上あれば、被保険者資格喪失後に初診日があっても、厚生年金の給付対
象にする考え方 ※「長期要件」という言葉を使っています。
現在の障害年金制度では、過去にどれだけ長く厚生年金に加入していても、初診日において厚生年金加入中(会社に勤務中)でなければ、「障害厚生年金」は受給出来ません。
障害厚生年金について
障害厚生年金
➣3級 厚生年金部分のみだが最低保証額有。
➣2級以上
障害厚生年金+障害基礎年金の2階建ての年金が受給可能、配偶者や子の加算有 ※配偶者や子の加算は条件あり
初診日が国年加入中であれば「障害基礎年金」しか受給出来ません。
※障害等級2級以上でなければ不支給であり、基礎年金は2階建てではありません。
【制度及び実務上の課題(ヒアリング結果)】
障害年金制度に関連する検討課題について (初診日要件)
(延長保護)
〈留意点〉
・ 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大が進む中で、短期間での離職等により国民年金と厚生年金を頻繁に異動する被保険者に対する厚生年金の延長保護について、厚生年金の保険料負担と給付のバランスを考慮する必要がある。
・ どのように延長期間を定めたとしても、境目は必ず生じることになり、初診日の違いによって受給できる障害年金に差が生じることには変わりない。
・ 資格喪失後からの期間が長くなればなるほど、資格喪失後の事故や発病の事例も増えることから、一定期間を長く設定することは難しく、期間についての合理的な理由の説明が必要。また、延長保護期間に初診日を求めることにより、初診日の特定が難しい事例が増える。
・ 今まで以上に正確な初診日の設定が重要となるが、そのためには「社会的治癒」の考え方も併せて整理する必要がある。
※ 社会的治癒とは、医療を行う必要がなくなって、社会復帰している状態を言い、その後に発症した傷病は、過去の傷病とは別のものとして扱われること
(長期要件)
〈留意点〉
・ 被保険者資格喪失後の事故に対して給付を認めることは、社会保険制度に反するとも考えられる。
・ 長期要件の定め方については、加入者資格や加入期間についても検討が必要。
〈良い点〉
・ 精神障害等、発症から実際の受診が遅れることが多い障害について、厚生年金保険料を長期にわたって納付した者に障害厚生年金の受給可能性を広げることは、障害者の所得保障の充実に資する。
- 事後重症の場合の支給開始時期
【事後重症の場合の支給開始時期に係る論点】
事後重症の場合でも、障害等級に該当するに至った日が診断書で確定できるのであれば、その翌月まで遡って障害年金を支給することを認めるべきかどうか。
(障害認定日以降に症状が悪化した場合の支給開始時期を、遡及して支給することができるかどうか)
現行の制度では、請求日の属する月の翌月分から支給となっています。
【制度及び実務上の課題(ヒアリング結果)】
○ 遡及する場合の遡及期間は、時効(5年)やカルテの保存期間(5年)等を踏まえる必要がある。
○ 遡及して障害認定を行うに当たっては、様々な障害がある中で、客観的な認定基準を基に公平に行われることが重要である。
○ 今後の医療の進歩等により、従前は症状が確定したと思われた障害においても、症状が改善する場合があることには留意が必要である。
(実務上の課題)
◯障害認定日と異なり、事後重症による障害認定日はある程度任意に設定できるため、同一傷病による請求が頻発することへの実務上の対応、事務処理体制の強化。
◯病院の廃院や、転院を繰り返す等で過去時点の診断書を取得することが困難な者への公平性の観点も必要である。
3.直近1年要件
【直近1年要件に係る論点】
直近1年要件について、令和8年3月31日が当該措置の期限となっているが、次期制度改正に向けて、これまで
同様に10年間の延長をすべきかどうか。
【制度及び実務上の課題(ヒアリング結果)】
(課題)
○ この特例は、保険料を過去に長期間滞納していたとしても、直近1年間さえ納付していれば年金を支給する仕組みであるため、保険料を欠かさず納付している方や、過去、相当の期間保険料を支払ってきても、3分の2要件と直近1年要件のいずれにも該当せずに支給されない者からは不公平だと受け取られる可能性もある。
○ 過去、10年間の延長が何度か繰り返されてきており、役割を終えているとも考えうるが、一方で、現在もこの特例措置によって障害年金の受給につながっているケースがあることに留意する必要がある。
4.障害年金受給者の国民年金保険料免除の取扱い
【障害年金受給者の国民年金保険料免除の取扱いに係る論点】
○ 障害年金受給者の法定免除期間について保険料納付済期間と同じ扱いにするべきかどうか。
※ 障害等級が2級以上の受給者の場合、国民年金保険料については法定免除となり納付することを要しないが、障害の状態が65歳前に軽減し、障害基礎年金の支給が停止された場合、65歳以降は、法定免除期間について保険料納付済期間に算入されずに減額された老齢基礎年金を受給することになる。
【見直しを行った場合に想定される影響】
○ 障害の状態が軽減し、障害年金の支給が停止された場合でも、65歳以降に支給される老齢基礎年金については、障害年金受 給中の期間を保険料納付済期間に算入した上で計算することで、現行よりも増額した老齢基礎年金の受給が可能となる。
【制度及び実務上の課題(ヒアリング結果)】
○ 生活保護法による生活扶助等を受けている方々など、障害年金の受給権者以外の法定免除該当者との公平性について考慮する必要がある。
○ 現行制度で障害年金を受給しながら保険料を納付している方々もいることに留意が必要。
○ 申請免除の対象となる納付が困難な低所得者の方々との公平性についても考慮する必要がある。
5.障害年金と就労収入の調整
【障害年金と就労収入の調整についての論点】
○ 障害年金と就労収入の関係をどのように考えるか。両者の間で一定の調整を行うべきか。
※ 障害年金では、原則として、就労をして収入を得たとしても、直ちに障害年金が支給停止になったり、減額されることはない。他方、障害の種別によっては、更新時の就労状況によっては障害等級の変更が行われ、その結果として、年金額の減額 や年金支給の打ち切りが行われることがある。
【制度及び実務上の課題(ヒアリング結果)】
○ 拠出制の年金について所得制限を入れることは、社会保険の理論と相反する。(反対意見)
(課題)
○ 金額の設定や他の障害者支援施策での給付等とのバランスをどのように考えるかという観点で課題がある
○ 障害の種別により、就労が障害年金の認定基準に影響しない場合がある。
○ 障害の認定に際しては、障害の種別に応じた様式の診断書を用いて認定を行っている。こうした障害認定基準は、障害の程度を判定するにあたり就労の有無は密接に関係している。
例えば、精神障害においては、障害の程度を判定するにあたり、日常生活能力等を判断する際に、どのような職場でどのような雇用形態で就労しているか、ということは重要な要素となる。
一方で、内部疾患の障害等においては、障害の程度を判定するに当たって検査成績など医学的な見地での判断が占める割合が大きいものもある。
○ 医療の進歩により、過去は日常生活に支障があったとしても現在は日常生活への影響が少なくなった障害もあり、同じ種別の障害で同じ等級の障害 年金が支給されていても、日常生活への影響の程度に差が生じていることもある。
◯ 障害年金と就労収入の調整を行う場合には、いつの所得を把握し、いつの給付から反映するか、等の実務上の体制整備が必要。
☆まとめ
どれだけご病気や怪我が重症であっても、20歳前に初診日が無い限り、保険料納付要件を満たさなければ
障害年金は受給出来ません。この「初診日における納付要件」で障害年金を断念せざる得なかった方をたくさん見てきました。
障害年金を請求しようと思っても初診日がかなり前にあるにも関わらず、病院のカルテ保存期間は5年間と決まっており、初診日を証明する書類が取得出来ずに断念される方も多いです。
具合が悪くなって会社を辞めて初めて病院へいらしたのが国民年金加入中であり、退職前は相当長い期間厚生年金にご加入されていらしても障害基礎年金としてしか請求出来ません・・・。
そして何より、障害年金という制度をご存じない障害をお持ちの方もまだまだいらっしゃいます。
障害年金制度がもっとより良い制度になるべく縁の下で改革のために活動、提言されていらっしゃる弁護士さんなどの存在も決して忘れてはならないと肝に銘じています。
障害年金を実務的に請求、受給出来るために社会保険労務士として日々奔走していることが多いため、ふと立ち止まって障害年金制度自体について考える良い機会を頂けたと思っています。
ありがとうございました。
障害年金制度の見直しについて:厚生労働省:社会保障審議会より抜粋 001281352
社会保障審議会年金部会の議論の詳細については下記をご覧ください。